経営お役立ちコラム
「この価格で売ってOK?」の判断基準 ~現場で使える管理会計の考え方(2)~

 

受注するときにどこまで値引きするかは、経営者にとって大事な判断です。売上は欲しい
が損もしたくない。そんな時、売るか見送るかの判断基準として「限界利益」の考え方
が役に立ちます。

いま商品Xを受注生産している会社があり、1個当たりの総費用(原価)は1,000円、その
内訳は以下の通りとします
・変動費:600円(材料費、外注加工費など、生産量に伴って増減する費用)
・固定費:400円(労務費、減価償却費など、生産量に関わらず一定金額発生する費用)
なお固定費は、商品Xをフル生産したときの生産量で固定費総額を頭割りし、1個当たりに
配分した金額です。

ここで1個800円なら10個買いたいという注文が来たとします。10個分の生産余力は十分
あります。800円では原価割れですが受注してよいのでしょうか?

まず1個800円で受注したときと、見送ったときの利益を比較します。
受注したとき:
収入:8,000円
費用:6,000+4,000=10,000円(変動費+固定費)
利益:8,000-10,000=▲2,000円

見送ったとき:
収入:0円
費用:4,000円(固定費のみ)
利益 0-4,000=▲4,000円

このように、受注すると利益が2,000円増えるので、「受注してよい」が結論です。
受注したときの利益増(=損失減)2,000円は、追加の収入8,000円が、変動費6,000円を
上回っている金額に相当します。この収入―変動費を「限界利益」とよび、売上高
の増減にともない追加的に変動する利益の大きさを意味します。従って限界利益が
プラスの場合、つまり10個で6,000円以上の収入であれば注文を受けてよいことに
なります。

別の状況を考えてみましょう。今度は在庫をいくらで処分すれば損しないかという
問題です。スーパーの食品売場等で営業終了間際に、生鮮食料品や惣菜に20%とか
30%の値引き札が張られているのをよく見かけますね。これも限界利益の考え方で
判断できます。

先ほどと同じ商品Xで考えます。ただしこれから受注するのではなく、すでに生産
された在庫を販売する点が、最初の設例と異なります。やはり変動費をカバーできる
1個600円以上で売るべきでしょうか?

今度は商品が生産されているので、売っても売らなくても、1個当たり1,000円の
費用の発生は避けられません。つまり、元々の費用の性格が変動費であろうと固定費
であろうと、1,000円全額が実質的には固定費になっています。従って実質的な
変動費はゼロです。限界利益=収入-変動費(ゼロ)なので、限界利益=収入。
つまり在庫処分の場合は収入がそのまま限界利益になるので、1円でもよいから
売ってしまう方がよいことになります。ただ極端な値引きをすると、商品イメージや
定価への信頼を損ねてしまうので、現実的には値引き幅に一定の歯止めが必要でしょう。

以上のとおり、収入が変動費を上回り限界利益がプラスである限り利益は増えます。
限界利益を判断基準にすれば、「原価にこだわって高く売るより、変動費を回収
できる水準で早く売ったほうがよい」ということがわかります。

ただしいくら限界利益がプラスでも、原価を下回る価格でフル生産水準まで売り
続ければ、売上高で総費用をカバーできず最終的には赤字となってしまいます。
限界利益は、生産余力があり固定費が増えない場合に、売るか売らないかの判断を
迫られたときの「短期的な判断基準」といえるでしょう。中長期的には、商品別の
限界利益率や利益額を把握したうえで、どのような売り方をすれば効率的に限界利益
で固定費をカバーし、黒字化できるかを考える必要があります。

限界利益を意識し、どのような価格で商品を売るかの判断に役立てていただければ
幸いです。

大橋 功

16/10/01 16:11 | カテゴリー:,  | 投稿者:広報部 コラム 担当

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