◆はじめに
本は1人で読むもの。つまり「独」書であるという概念を打ち破るのが読書会です。テーマに沿った本を持ち寄って、コーチングの「傾聴」、ファシリテーションの「対話」、人的資本経営の「心理的安全性」を盛り込んだ手法です。所要時間は2時間ほど。事前に本を読んでこなくても大丈夫。参加のハードルが低いのが大きな特徴です。
◆中小企業を取り巻く課題
人手不足が深刻になるなか、中小企業が新規採用を行って人員を確保することはたいへんな困難を伴います。これからの時代は、ますます生産性を向上させ、限られた人員で業務をこなすという方針を採用しなければ、事業そのものが立ち行かなくなります。
さらに、新規事業や顧客の開拓、SDGsや対話型AIの登場など、次々とやってくる外部環境の変化にも対応していかなければなりません。
このような背景を考慮すると、中小企業診断士には、中小企業の実情に寄り添った、多様かつ迅速な支援が強く求められているのではないでしょうか。
◆読むだけに終わらない!のが読書会の特長
読書会の手法は様々ありますが、ファシリテーションの手法についてしっかり訓練を受けたファシリテーターが読書会を進行することが多いです。ファシリテーターは、1人で本を読むだけでは得られなかったであろう、参加者同士の交流や深い学びと気づきを支援する役割を担います。
◆イノベーションも起こせる読書会
20世紀を代表する経営学者ピーター・ドラッカーは、名著『現代の経営』の中で次のように述べています。
「企業の目的が顧客の創造であることから、企業には二つの基本的な機能が存在する。すなわち、マーケティングとイノベーションである」
ドラッカーの言うイノベーションとはなにか?同じく『現代の経営』の中で「もっとも偉大な近代経済学者」と讃えられるジョゼフ・シュンペーターによれば、それは「新結合」のことを指します。「すでにある」何かと何かの組み合わせによってイノベーションは生まれるということです。
全く新しいものではなく「すでにあるもの」同士の結合。このことが中小企業にとっての注目ポイントです。なぜなら、今いる人材、持っている技術や設備などの「すでにあるもの」同士を組み合わせることなら、中小企業にも取り組めるからです。新たな人材の採用や設備投資はなかなか難しい中で、第一に取り組んでいくべき、取り組んで何ら損はないことではないでしょうか。
◆本を通じた「知と知の組み合わせ」
イノベーションを実現し、生産性向上や新規事業開発、顧客開拓のアイデアを生み出す。ひいては、従業員同士の交流を深め、それぞれが持つ知識やスキルを組み合わせ、融合させる。そのために、解決したい課題に関するテーマの本を持ち寄って、1人で読むのではなくみんなで本を読む「読書会」を開催してみてはいかがでしょうか。
読書会は、注目が高まっているリスキリングにも活用できます。リスキリングは従業員の自助努力に任せることではありません。企業側が従業員一人一人に合わせてメニューや制度を用意することも必要です。資金に乏しい中小企業はこの点では不利ですが、読書会ならこの点をクリアできます。すでにある「社員教育プログラム」と読書会を組み合わせることで、新しい価値を生み出すきっかけになるのではないでしょうか。
<<執筆者>>
酒巻 秀宜(さかまき ひでき)
中小企業診断士
サカマキ HRE Works 代表
中小企業のメーカーにて人事マネージャーとして採用や教育に従事した経験を活かして企業支援を行う。