前回は上場のメリット・デメリットについて見ていきましたが、今回は、引受審査についてみていきたいと思います。
上場に至るまでの審査には、主幹事証券会社による「引受審査」と証券取引所による「取引所審査」があります。引受審査は、主幹事証券会社が、引受責任を果たすために、会社から収集した資料等を基に、有価証券の引受けの可否を判断する審査です。その後の取引所審査は短期間に膨大な質問や指摘に対応していく必要があるため、当初のスケジュール通りに上場するためには、この引受審査期間中にどれだけ課題をつぶせるかが非常に重要なポイントになります。
■引受審査とは?
引受審査は、書面審査やヒアリング、実査等で構成されており、時期や内容により、大きく下記の2つに分かれる。
(1)取引所への上場申請に係る審査(~上場申請まで)
主幹事証券会社が取引所への上場申請に必要な「推薦書」を出すために行う審査であり、「公開するのにふさわしい会社か」、「成長性や事業計画の妥当性」、「情報開示」等について審査する。
(2)ファイナンスの引受にかかわる審査(上場申請~払込まで)
上場前の公募又は売出しを行うにあたっての審査であり、直近の月次実績を踏まえた上で、事業計画や成長性、ファイナンスの資金使途の妥当性等を審査する。
私がIPOを担当した企業では、引受審査手続きは計4回の書面審査を中心に実施され、各回の審査では数十~数百個の質問に対して、それぞれ2週間程度で回答する必要がありました。通常業務はもちろん、上場申請書類等の作成を並行して行うため、経営企画、経理、法務等の管理部門を中心に業務に精通したメンバーによるしっかりしたプロジェクト体制を構築しないと現場には大変な負荷がかかることになります。
■上場申請期のスケジュール例(3月決算、12月上場の場合)
3月末 申請直前期末
4月中旬~9月上旬 引受審査
9月上旬~11月上旬 取引所審査
12月 上場
さて、引受審査ではどのような点について審査されるのでしょうか?日本証券業協会は、新規公開における引受審査項目について、下記のように定めています。
■新規公開における引受審査項目
(1)公開適格性
(2)企業経営の健全性及び独立性
(3)事業継続体制
(4)コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の状況
(5)財政状態及び経営成績
(6)業績の見通し
(7)調達する資金の使途(売出しの場合は当該売出しの目的)
(8)企業内容等の適正な開示
このように多岐にわたる審査項目ですが、実は中小企業の経営においても役立つポイントが非常に多くあります。
例えば、予算管理。会社が持続的に継続していくためには、個人経営・属人経営・成り行き経営から脱して、合理的に作成された事業計画に基づく事業運営が必要になります。また、予算と実績の乖離を定期的に確認して、必要な軌道修正をタイムリーに行うことで、利益管理の精度を高めることが出来ます。
また、反社会的勢力の関与を防ぐ為に、新規取引先の属性調査を行うマニュアルや体制の整備、契約書や契約約款の中に反社会的勢力との取引を拒絶する旨を盛り込む等の対応が求められます。
その他では、「労務管理」が特に厳しく見られます。何故なら、企業は優秀な人材を確保して定着させることで、はじめて、上場後の成長性や継続性、安定性を実現できるからです。適切な労務管理のために、タイムカード等で1分単位の勤怠管理を行うことは当然として、残業代が適切に支払われているかどうか、36協定を遵守しているかどうかも確認されます。
日本政府が平成28年9月に立ち上げた「働き方改革実現会議」では、長時間労働の是正を検討課題の1つに挙げており、残業時間に一定の規制を設ける方針との報道もあります。今後は、中小企業にとっても、積極的に労務管理を改善する姿勢がますます重要になっていくのではないでしょうか?
さて、無事に審査を通過して、上場承認が下りたら、いよいよ多数の機関投資家を個別に訪問するロードショー(プレ・マーケティング)の始まりです。次回は、ロードショーについて具体的にお伝えしたいと思います。
吉村 崇司