経営お役立ちコラム
事業承継における遺言の活用

1.はじめに
 前回に続き、下町に3代続く石材店「寺内石材店(石貫)」の家族、「寺内貫太郎一家」(初回放送1974年TBSテレビ)を想定モデルとして事業承継を考えていきます。家族は、主人公兼会社経営者、実母、妻、長女、長男(後継者と想定)です。前回で事業承継については、4代目となる長男に、企業の知的資産を引き継ぎつつ、将来展望の経営デザインを親子で描くことになり目途がつきました。そして、今回は個人資産の承継として相続準備を進めます。

2.遺書と遺言
 相続準備として遺言を作成している割合が少ないのが実状であり、まだまだ活用されていません。家族の仲良いから相続は問題ないということや、自分が亡くなったあとは話し合えばいいということをよく聞きます。確かに問題のない場合も多いですが、親族内の事業承継において遺言はセットで活用すべきと考えます。
 私は、これまで(*1)公正証書遺言の作成・証人として30件以上立ち会ってきました。遺言のお話しをすると、ご本人からは「まだまだ寿命じゃない」とか、ご家族からは「死んでほしいように思われてしまう」というようなネガティブなことを、うかがうことがあります。「遺書」と似た言葉なのでそのようなイメージがあるのかもしれません。「遺書」は「死ぬ前に家族に遺す手紙」であり財産のことは殆ど書かれていません。一方、「遺言」は「自分が蓄えた財産を自分の意思で配分し、相続人たちが争うことなく遺産分割できるように記すもの」です。いわば、財産分割書です。
(*1)公正証書遺言は、公証人が法的有効性を確認して公証役場に保管します。自筆で書き上げる自筆証書遺言に比べて偽造変造や紛失などのリスクを抑えることができます。

3.寺内貫太郎一家の遺言
 主人公・貫太郎の法定相続人は、妻・里子、長女・静江、長男・周平です。法定相続割合では、妻1/2、子1/4×2人となります。親心としては、子供2人とも平等に財産を渡したいところですが、一般的に事業承継を考えれば、自社株、自宅兼事務所の不動産など後継者の長男への配分が多くなります。寺内家の場合は、妻1/4、長女1/4、長男1/2という法定相続割合とは離れた財産分割となりました。
 このように遺言があればいいですが、もし無い場合は、遺産分割協議として法定相続割合を念頭に相続人間で話し合わなければいけません。悲しみで疲れている中での話し合いは大変です。また、本人は財産がわかっていても、不慮のことが突然起こると家族ではなかなか全資産を解明するのは大変です。最近では、パソコンで管理しているのはいいのですが、取引のパスワードがわからず苦労したというようなこともあるようです。相続税納付後、税務署の調査は約1割で入っているので、寺内家に入ることも十分あり得ます。遺された家族のために、そして事業に支障をきたさないように遺言作成による相続準備をお勧めします。

4.遺言本文では書けないメッセージ「付言」の活用
 遺言の内容には、法的効力を持つ「法定遺言事項」と、法的効力はないが書いておくと良い「付言事項」の2つがあります。法定遺言事項を書いておけば遺言書として効力を発揮しますが、遺言書の最後の部分で付言事項を書くことで、なぜそういう遺言をしたのか、家族に想いを伝えることができます。
 ここでは、長男が事業を引き継ぎ、病気の母の面倒については長女が寝る間を惜しんで面倒見ていたとしましょう。すると、長女は、多く渡すことになる長男への財産分割配分には不公平感を持つかもしれません。ちょっとしたことで、相続が争続になることもよく聞く話です。
 付言では、自分の言葉で家族への想いを遺します。今回の事例では、以下のような付言が遺されて遺言書開示で読み上げられました。
「私の人生は、3代目として石材店の経営に尽くしてきました。すぐ怒る恐い父だったかもしれません。
長男の周平が4代目を継いでくれることになり、本当にうれしく思っています。事業を継続していくのは山あり谷あり大変だとは思いますが、自分のスタイルで経営してください。株券や自宅兼事務所など、事業に必要な資産を周平に引き継ぎます。
長女の静江は、いつもお母さんの面倒をみてくれて感謝しています。財産配分は、周平に比べると少ないかもしれませんが、結婚の際、援助していることもあり、このように決めました。これからも、身体の弱くなったお母さんの面倒をしっかりとみてください、私からのお願いです。
妻の里子には、会社のこと、家事のこと、子育てで苦労をかけました。これからさみしい思いをさせてしまうかもしれませんが、里子と過ごした日々は何事にもかえられない思い出です。良き伴侶を得たことに心から感謝しています。
素晴らしい家族に恵まれたことに本当に感謝しています。良い人生でした。どうかこれからも家族仲良くすごしてください。最後に本当にありがとう。」
 以上のように、遺言がない場合、遺言で法定遺言事項だけの場合、遺言で法定遺言事項と付言事項がある場合を考えてきました。事業をスムーズに承継するとともに、相続が想いを伝える「想続」となるように遺言を活用していただきたいと思います。

出所 参考文献:
・TBSチャンネル寺内貫太郎一家(https://www.tbs.co.jp/tbs-ch/item/d0087/)

川居 宗則

19/09/30 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:広報部 コラム 担当

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