◆はじめに
そもそもリスクマネジメントとは何なのか?
少々古いが2016年の中小企業白書では「リスクを組織的に管理(マネジメント)し、損失等の回避又は低減を図るプロセスをいい、ここでは企業の価値を維持・増大していくために、企業が経営を行っていく上で障壁となるリスク及びそのリスクが及ぼす影響を正確に把握し、事前に対策を講じることで危機発生を回避するとともに、危機発生時の損失を極小化するための経営管理手法」と定義している。
最近では外注先の業務停止が及ぼす自社への連鎖的影響の拡大や、従業員の法令違反による品質問題の発生等の新たなリスクが顕在化しており、企業がリスクマネジメントを積極的に行うことが求められている。では、中小企業のリスクマネジメントの実態はどうであろうか?
体制面で見た場合、図表1のとおり大企業は組織的にリスクマネジメントを行っているが、中小企業では「リスクマネジメントを担当する専門部署がある」と回答したのは僅か3.9%、「担当部署なし」が40.4%となっており、中小企業においてはリスク管理体制が十分に整っていないことがうかがえる。限られた人員の中で新たな体制を敷くことのハードルは高いものの、リスクマネジメントの観点では、他業務と兼務であってもリスクマネジメントの担当者を配置するなどの手配が望ましい。
図表1 リスクマネジメントに対する体制(2016年中小企業白書)
◆リスクの評価
次にリスクの評価である。縦軸に経営への影響、横軸にリスクの頻度で中小企業のリスクをプロットしてみると、以下のようなマトリックスができあがる(図表2)。
発生頻度は低いが経営への影響が大きいものに火災、地震などがあり、発生頻度は高いが経営への影響が小さいものに交通事故などがある。この評価は企業ごとに異なるため、まずは自社のリスクを洗い出し、経営への影響、発生頻度の両面から分析し、評価のうえ、リスクマトリックスを作成してみることをおすすめする。
◆リスクの対応方法
リスク評価ができれば、次にリスクへの対応方法の検討である。リスク対応を機能面で見た場合、「リスクコントロール」と「リスクファイナンシング」に分けられる(図表3)。
リスクコントロールとは、損害予防または拡大防止のことをいい、リスクファイナンシングは損害発生後の資金手当てのことをいう。これらを組み合わせて効果的なリスク対応を計ることで、適切なリスク対応を行うことを検討する。
図表3 リスクの対応方法(JISQ31000におけるリスクプロセスマネジメントを参考に筆者作成)
◆損害保険の活用
本コラムではリスクの対応方法のうち、リスクファイナンシング手法の一つである損害保険の活用について説明する。地震保険、火災保険、自動車保険などは一般的になじみがあるが、現在では数多くのリスクに対応した企業向けの保険商品が開発されている。
図表4は損害保険協会が実施した中小企業向けの意識調査結果である。実際に被害を受けたリスクTOP5のなかの「売上の減少」「経済環境のリスク」「感染症」などは保険とは縁遠いという印象を受けるかもしれない。現在では発生原因によっては、それらのリスクをカバーする保険商品も販売されている。リスク評価の結果、大きなリスクがあると考えられるものに対しては、損害保険の活用も選択肢として考えることで、経営の安定化を図ることができる。
図表4 損害保険協会 中小企業を取り巻くリスク意識調査2023
リスクマネジメントの体制づくり、対応方法の検討は一朝一夕でできるものではないが、VUCAの時代を生き抜くうえで、必要不可欠である。ここで紹介できるのは紙面の関係上、リスクマネジメントのほんの一部分であるが、本コラムが読者の皆様のリスクマネジメント検討の一助となれば幸いである。
<参考文献>
中小企業を取り巻くリスク 意識調査2023 日本損害保険協会 2023年
平成27年度中小企業のリスクマネジメントと信用力向上に関する調査報告書 みずほ総合研究所 平成28年
中小企業白書2016年版 第4章稼ぐ力を支えるリスクマネジメント
自然災害が中小企業の業況に及ぼす影響* ─「全国中小企業動向調査」を使った実証分析─ 日本政策金融公庫 2021年8月
保険とリスクマネジメント 財団法人損害保険事業総合研究所
リスクマネジメントと損害保険(2024年版)/リスクマネジメント入門<JISQ31000準拠> インターリスク総研
2022年中小企業診断士登録。大手損害保険会社に勤務する企業内診断士。
20年超にわたる損害保険会社での営業部門に従事した経験を活かして企業支援を行う。