経営コラム
値下げする前にまず考えるべきこと ~現場で使える管理会計の考え方(3)~

競合先と差別化しようというときに、つい「値下げ」を考えがちな方はいませんか?2回にわたって経営の現場で使える管理会計の考え方をご紹介してきましたが、最終回の今回は、値下げが利益に与える影響の大きさについてふれたいと思います。

売上高=価格×販売数量なので、ふつう値下げを行う場合は、価格を下げ販売数量を増やして、売上高を維持または増加させようとするでしょう。しかし最終的には売上高だけでなく、手元に残る利益の確保が不可欠なはず。ではどの程度販売数量を増やしたら値下げ前と同じ利益を得ることができるのか、具体例に試算してみましょう。

1個500円の弁当を製造販売している個人経営の弁当屋を考えます。単純化のため弁当1個あたりの総経費は450円とします。弁当1個を販売すると利益が50円出る状況です(利益率10%)。

 

さて近隣に大手弁当チェーンの店が出店し、同額の1個500円で売り始めたので、弁当屋の社長は値下げで対抗しようと考えました。5%値下げしたとき、同額の利益を確保するには販売数量をどれくらい増やす必要があるでしょうか? 単価を5%下げるのなら販売数量は5%増やせばOKでしょうか?

実際に弁当1個当たりの利益はどう変化するか計算しましょう。

値下げ前(価格500円)の利益は50円です。一方、価格を5%値下げして475円で売った場合、経費はやはり1個あたり450円かかるので利益は25円。その結果、5%の値下げで利益は何と50円から25円に半減してしまいます。従って販売数量は5%増どころか、これまでの2倍売らなければ同じ利益額を確保できません。1日平均1,000個売っているとすると、平均2,000個売る必要があることになります。

このように値下げが利益に与える影響は極めて大きいのです。なぜでしょうか? それは値下げしても費用は減らないので、値下げによる売上減が利益減に直結するからです。この弁当屋の場合、値下げ幅は5%なので利益率は10%-5%=5%に低下します。また元々の利益率は10%なので、もし10%値下げすると利益はゼロになってしまいます。

値下げで利益を確保しようとしても、「値下げ後に大幅な販売数量の増加が望める」、そして「生産拡大により更なるコストダウンが可能」という条件が成立しない限り成功しないことがお判りでしょう。一般に、値下げは大量生産が可能な大企業に適した戦略です。中小企業が競合と対抗するには付加価値の高い、その店ならではの商品やサービスで差別化し、なるべく値下げを回避するのが望ましい姿です。個人経営の弁当屋であれば価格ではなく、大手チェーン店では真似できない味、食材、きめ細かい顧客サービスなどで勝負したいところです。

 

しかし値下げが一概に悪いとはいえません。より重要な目的の実現を目指す「戦略的な値下げ」はありえるからです。具体例としては以下のようなものが考えられます。

・将来の大口取引が見込める優良顧客に、実績作りのため安値で受注する

・値下げ商品を集客手段にして、利益率の高い目玉商品を一緒に売る

・リピーター向けに割引する(例:10回買物してくれたお客様に500円分のクーポンを出す)

このように会社の成長や競争力強化につながる、優良顧客の開拓、顧客単価向上、リピーター囲い込みなどの明確な目的があれば、値下げも有効な手段と言えるでしょう。安易な値下げは禁物です。値下げを考える前に、それが利益に与えるマイナス影響をまず試算し、販売数量の増加やその他の戦略的な目的を実現することで取り戻せるかどうかを、十分検証していただきたいと思います。

大橋 功

16/10/31 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:column-post

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