経営コラム

中小企業、各種法人経営者の皆様は、事業の安定と成長に向けた戦略をお考えのことと
思います。戦略の一歩は自社の強みを把握し、計画的に実施していくことです。
実施が社内の経営資源だけでは難しい場合、実務経験のある専門家の活用をお考えに
なっては如何でしょうか。経営リスクの低減、人材育成に繋げている社会福祉法人
<保育所>の事例をご紹介します。
1.支援に至る経緯

社会福祉法人(保育所)は助成金が主たる財源であるため、一般的に事務部門に人手
をかけられない状況にあり、法人責任者及びそれに準ずる職員が一気通貫で事務処理を
進める場合が多いようです。園長が理事会運営、自治体の保育所指導検査準備、人事総務
経理管理、給与計算等の職務を抱えています。園長に集中している職務を他の
スタッフに分散し、内部統制を効かせられるような仕組づくりの要請があり次の支援に
取り組んでいます。
2.支援内容

1)事務処理マニュアルの作成
職員が仕事内容を早く理解でき、進められようにするため、園長、職員から仕事内容
を聞き取り、内部統制(牽制)を考慮した事務処理マニュアルを作成しました。
手順の詳細は省略しますがマニュアル管理項目は次の通りです。

1.出納帳管理(小口現金、預金出納)
2.入金管理(延長保育料入金管理、一時保育料)
3.支払管理(業者支払その他)
4.銀行残高証明管理
5.総務庶務(入・卒園式、健康診断、出欠勤、園内清掃自主点検、年賀状名簿、
非常用備蓄点検、園発行誌、保護者対応等)年度末会計資料作成(未収入金、未払金等)
6.給与計算
7.行政対する申請手続き(運営費補助、サービス推進費等)
8.子育て支援事業
9.管掌自治体指導検査
10.貴重品管理(鍵、預金通帳、印鑑等)

2)指導検査対応チェックリストの作成
東京都及び市区町村が社会福祉法人並びに傘下保育所に対して毎年定期的に指導検査が
実施されています。園長中心の検査準備を他のスタッフが日頃の業務のなかで行って
いけるように、チェック項目を現場責任者別に分類した自己検査チェックリストを作成し
担当者が準備できるようにしました。

3)職務分担表の作成
全般管理、保育・看護、総務庶務、人事、経理等の職務を担う理事、園長、主任
主任補佐、担当者等が責任範囲を明確にして仕事を進められように職務ごとに「担当申請
→上長決定→最終責任者承認」の手続フローを作成しました。
3.支援後の状況

最近、事務職の交代がありましたが、事務処理マニュアルに沿って引継ぎが円滑に
行われています。指導検査対応マニュアル、職務分担表についてはこれから職員に運用研
修を実施することにしています。更に、人材育成の視点にたって、職員が自発的に成長目標を
設定してその進捗を考課に反映していく人事考課制度、職員の採用と定着に結びつく
賃金体系の検討をすすめています。

砂村  栄三郎


17/03/31 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:column-post

中小企業経営者の方々の中には、「何か自社製品や自社の取り組みにお墨付きが欲しい」と考えておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。たとえば、経営革新計画を作って認定を受けたり、経営力向上計画の認定を受けたりしている企業さんもおられるでしょう。実際、認定を受けるとサイトで公表されたりするので、一種のお墨付きになります。

「経営革新支援」 http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/

「経営強化法による支援」 http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/

 

今回、ここでご紹介するのは、東京商工会議所が毎年行っている「勇気ある経営大賞」という賞です。

勇気ある経営大賞 https://www.tokyo-cci.or.jp/market/keieitaisyo/

 

この賞は、既に14回を数えている、つまり14年間続いている経営大賞です。先のサイトをご覧いただくとわかりますが、概要を引用すると、「東京商工会議所が、厳しい経営環境の中で勇気ある挑戦をしている中小企業またはグループ(以下、企業)を顕彰する制度」です。

主要な対象者が中小企業になっており、勇気をもって挑戦している企業は対象となるわけです。個人的意見で恐縮ですが、一生懸命やっている中小企業の多くは勇気ある挑戦をしているケースが多く、この経営大賞に応募できると考えています。

 

もちろん、やる気がないとか、このままでいいんだと考えている中小企業にこの経営大賞はお勧めしませんが、勇気をもって大きな設備投資をして事業拡大を狙ったり、これまでになかった新しいサービスを開発して一生懸命販売にいそしんだり、その販売の仕組みが他の中小企業の手本になるようなものだったりすれば、大賞も夢ではありません。

ちなみに、大賞を取ると、賞金200万円(原則1社)、優秀賞でも賞金50万円、特別賞は賞金30万円だそうです。

過去の受賞企業を見てみましょう。

https://www.tokyo-cci.or.jp/market/keieitaisyo/d_archive/

 

ご覧いただくとわかりますが、確かに大賞を取った企業は有名になっているところが多いかと思います。一方、大賞でなくても有名になっている企業もあります。これは、賞を取るとこの賞に協力しているフジサンケイビジネスアイ社などが取材したりするためと思われます。実際、MXテレビなどにも受賞企業は出演していますから、メディアへの露出が増えるわけです。こうなると、当然、名が知られてきます。

さて、この賞への応募ですが、時期だけをきちんと意識すれば、条件などは特別ありません。応募要領が次にあります。

応募要領

https://www.tokyo-cci.or.jp/market/keieitaisyo/c_detail/

 

未上場で、中小企業の枠に入っていて、一都八県に本社があり、東京に事業拠点があればOKです。

こちらにある選考基準をよく見て、自社の経営がこの選考基準に当てはまりそうだなという方はぜひ、応募を検討してみてください。

選考基準

https://www.tokyo-cci.or.jp/market/keieitaisyo/c_select/

 

勇気ある経営大賞に認められれば、きっと有名企業となり、受注も増えるのではないですか?「うちなんてねぇ」といわず、自社の良いところを探し、過去の挑戦を探し、これからの挑戦を生み出してみてはいかがですか。

中小企業の勇気ある経営が日本の経済をこれまでも、そしてこれからも支えていくのですから。

佐川 博樹


17/02/19 04:51 | カテゴリー: | 投稿者:column-post

ロードショーと言えば、一般的には映画の封切りを表すかと思いますが、金融業界においては、IPO前に機関投資家を訪問する一連のアクションをこのように表現します。機関投資家とのミーティング直後に「会社の魅力やリスク等」についてアンケート調査を行います。アンケート結果は、その後の公募価格決定に大きく影響するため、発行会社の資金調達を成功させる上で、ロードショーは非常に重要なイベントになります。

 

■ロードショー(プレ・マーケティング)とは?

上場承認後に行われる機関投資家とのミーティング。上場承認時に目論見書に記載された株価は、まだ投資家の需要を確認する前の「想定価格」であるため、価格発見能力に優れた複数の機関投資家による評価や株式購入意向等を把握し、それらを参考に「仮条件の価格帯」を決定していく必要がある。ロードショーでは、「One-on-One(ワン・オン・ワン)」と呼ばれる機関投資家との個別ミーティングと「ラージ」と呼ばれる大人数の投資家向け説明会の2種類がある。

ロードショーは上場承認日の翌日から10営業日程度、毎日、数社の機関投資家を訪問します。各ミーティングの間隔は30分程度と非常にタイトなスケジュール構成の為、移動はハイヤーを利用する会社が多いようです。私がIPO準備を担当した企業でも、代表取締役と1~2名のスタッフでチームを結成して、早朝からハイヤーで東京駅周辺を中心に連日、機関投資家を訪問しました。ちなみにロードショーのスケジューリングは上場承認直後(15:30頃)に主幹事証券会社の担当部署が一斉に行う為、具体的な日程は上場承認日の19:00くらいにならないと固まらないようです。

 

■ロードショーの1日

09:00-10:00 機関投資家A

10:30-11:30 機関投資家B

11:30-13:00 ランチ・移動

13:00-14:00 機関投資家C

14:30-15:30 機関投資家D

16:00-17:00 機関投資家E

 

ところで、ロードショーの成否はどのように判断するのでしょうか?実は、一般投資家であっても、目論見書に当初記載されている「想定発行価格」とロードショー後の訂正目論見書に記載される「仮条件の価格帯」の差額からロードショーの成否を推察することが可能です。一般的には、仮条件の価格帯が想定発行価格より高ければ、ロードショーは成功、低ければ失敗と判断されるようです。

平成28年にIPOした企業の事例で、具体的に見ていきましょう。例えば、6月29日に東証一部に上場した株式会社コメダホールディングスの場合、当初の想定価格1,960円に対して、仮条件の価格帯は1,780~1,960円と切り下がっており、機関投資家から厳しい評価を受けた可能性があります。一方で、7月15日に東証一部に上場したLINE株式会社の場合、当初の想定価格は2,800円であったのに対して、仮条件の価格帯は2,900~3,300円と切り上がっているので、投資家の需要が高く、ロードショーが上手くいったと考えられます。

 

さて、ロードショーではどのような説明が行われているのでしょうか?東証マザーズ上場企業の場合、その参考となる資料が「成長可能性に関する説明資料」として、開示されています。

例えば、平成28年3月に上場した株式会社PR TIMESの「成長可能性に関する説明資料」は、「1.会社概要、2.事業環境、3.会社の強み、4.成長戦略」といった構成になっています。また、6月に上場した株式会社ストライクの場合は、「1.会社概要、2.市場動向、3.当社の特徴・強み、4.成長戦略」という構成になっています。つまり、「当社がターゲットとしている市場は成長市場なのか?」、「その中で当社はどのような差別化・特徴を有しているのか?」、「今後、どのような戦略で成長する計画なのか?」という視点で、機関投資家向けに説明を行っていることが分かります。

 

中小企業の経営においても、事業計画を策定する上で、非常に参考となる内容が多く含まれていますので、興味がある東証マザーズ上場企業の「成長可能性に関する説明資料」を一度、調べてみることお勧めします。

 

吉村 崇司


17/01/31 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:column-post

前回は上場のメリット・デメリットについて見ていきましたが、今回は、引受審査についてみていきたいと思います。

上場に至るまでの審査には、主幹事証券会社による「引受審査」と証券取引所による「取引所審査」があります。引受審査は、主幹事証券会社が、引受責任を果たすために、会社から収集した資料等を基に、有価証券の引受けの可否を判断する審査です。その後の取引所審査は短期間に膨大な質問や指摘に対応していく必要があるため、当初のスケジュール通りに上場するためには、この引受審査期間中にどれだけ課題をつぶせるかが非常に重要なポイントになります。

 

■引受審査とは?

引受審査は、書面審査やヒアリング、実査等で構成されており、時期や内容により、大きく下記の2つに分かれる。

(1)取引所への上場申請に係る審査(~上場申請まで)

主幹事証券会社が取引所への上場申請に必要な「推薦書」を出すために行う審査であり、「公開するのにふさわしい会社か」、「成長性や事業計画の妥当性」、「情報開示」等について審査する。

(2)ファイナンスの引受にかかわる審査(上場申請~払込まで)

上場前の公募又は売出しを行うにあたっての審査であり、直近の月次実績を踏まえた上で、事業計画や成長性、ファイナンスの資金使途の妥当性等を審査する。

私がIPOを担当した企業では、引受審査手続きは計4回の書面審査を中心に実施され、各回の審査では数十~数百個の質問に対して、それぞれ2週間程度で回答する必要がありました。通常業務はもちろん、上場申請書類等の作成を並行して行うため、経営企画、経理、法務等の管理部門を中心に業務に精通したメンバーによるしっかりしたプロジェクト体制を構築しないと現場には大変な負荷がかかることになります。

 

■上場申請期のスケジュール例(3月決算、12月上場の場合)

3月末  申請直前期末

4月中旬~9月上旬 引受審査

9月上旬~11月上旬 取引所審査

12月 上場

 

さて、引受審査ではどのような点について審査されるのでしょうか?日本証券業協会は、新規公開における引受審査項目について、下記のように定めています。

 

■新規公開における引受審査項目

(1)公開適格性

(2)企業経営の健全性及び独立性

(3)事業継続体制

(4)コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の状況

(5)財政状態及び経営成績

(6)業績の見通し

(7)調達する資金の使途(売出しの場合は当該売出しの目的)

(8)企業内容等の適正な開示

このように多岐にわたる審査項目ですが、実は中小企業の経営においても役立つポイントが非常に多くあります。

例えば、予算管理。会社が持続的に継続していくためには、個人経営・属人経営・成り行き経営から脱して、合理的に作成された事業計画に基づく事業運営が必要になります。また、予算と実績の乖離を定期的に確認して、必要な軌道修正をタイムリーに行うことで、利益管理の精度を高めることが出来ます。

また、反社会的勢力の関与を防ぐ為に、新規取引先の属性調査を行うマニュアルや体制の整備、契約書や契約約款の中に反社会的勢力との取引を拒絶する旨を盛り込む等の対応が求められます。

その他では、「労務管理」が特に厳しく見られます。何故なら、企業は優秀な人材を確保して定着させることで、はじめて、上場後の成長性や継続性、安定性を実現できるからです。適切な労務管理のために、タイムカード等で1分単位の勤怠管理を行うことは当然として、残業代が適切に支払われているかどうか、36協定を遵守しているかどうかも確認されます。

日本政府が平成28年9月に立ち上げた「働き方改革実現会議」では、長時間労働の是正を検討課題の1つに挙げており、残業時間に一定の規制を設ける方針との報道もあります。今後は、中小企業にとっても、積極的に労務管理を改善する姿勢がますます重要になっていくのではないでしょうか?

 

さて、無事に審査を通過して、上場承認が下りたら、いよいよ多数の機関投資家を個別に訪問するロードショー(プレ・マーケティング)の始まりです。次回は、ロードショーについて具体的にお伝えしたいと思います。

 

吉村 崇司


16/12/31 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:column-post

リーマンショック以降、低迷していた国内の新規株式公開(IPO)ですが、株式市況の回復と共に中小企業やベンチャー企業のIPOに対する関心は高まりを見せているようです。実際にIPO社数は過去6年連続で増加しており、昨年は92社まで回復しました。足元では、英国の欧州連合(EU)離脱等の混乱により、国内のマーケットにも少なからず影響を与えているようですが、このまま順調に行けば、2016年のIPO社数は久々に100社を超える可能性もあるそうです。

さて、中小企業にとってIPOには、どのようなメリットがあるのでしょうか?そして、株式公開準備では、どのようなことをする必要があるのでしょうか?今回より、計3回の連載で、株式公開の舞台裏について具体的にお伝えしていきたいと思います。

 

1年以上の準備期間を経て、いよいよ待望の新規上場の日

 

当日は、証券取引所でセレモニーが行われ、上場通知書贈呈式や記念撮影が一通り終わった後は、上場記念の打鐘(だしょう)が待っています。打鐘ができるスペース(VIPルーム)は神聖な場所とされ、セレモニー参加者の内、わずか20名しか入場が許されません。

計5回の打鍾は、「五穀豊穣(ごこくほうじょう)」に由来しており、新規上場会社の繁栄への願いが込められているそうですが、IPOプロジェクトメンバーにとって、この打鐘セレモニーこそ、これまでの株式公開準備の苦労が報われる至福の瞬間なのです。

 

さて、そもそも株式公開とは何のためにするのでしょうか?

 

日本取引所グループ(東京証券取引所及び大阪証券取引所の持ち株会社)は、同社のホームページにおいて、下記のような上場のメリットを紹介しています。

 

1.資金調達の円滑化・多様化

2.企業の知名度の向上

3.社内管理体制の充実と従業員の士気の向上

 

これらの恩恵は、すでに知名度や信用力のある大企業よりも、中小企業の方が享受できるのではないでしょうか?例えば、私がIPO準備を担当した企業では、競合他社に先んじて優秀な人材を採用していく必要がある中で、上場による知名度・信頼度向上は非常に大きな武器となりました。また、36協定遵守や各種規程の整備等による管理体制の充実、ストックオプションの付与による従業員の士気向上は、採用した優秀な人材を定着させる上で、必要不可欠なものでした。

また、従業員持株会の設立も上場企業ならではメリットの一つです。従業員持株会というのは、従業員の方々に、臨時積立(100万円未満で一度に株式を購入できる仕組み)や定時積立により、会社の株式を購入していただくものです。従業員持株会を設立することにより、従業員の福利厚生の一つとして、財産形成の機会を提供するだけではなく、会社へのロイヤリティや経営への参加意識向上に繋がるメリットがあるのが特徴です。

 

一方で、上場にはデメリットもあります。

 

IPO準備期間中は、主幹事証券会社と証券取引所による審査がそれぞれ複数回あり、審査対応の連続です。IPO準備プロジェクトメンバーは、矢継ぎ早に繰り出される膨大な質問を、各部署に割り振って、期限内にとりまとめて回答する必要があります。数ヶ月間に渡って、通常業務と審査対応が並行することになり、全社的に業務負担は非常に大きくなります。

また、会社の規模により大きく異なりますが、一般的には上場準備を行っている期間中、主幹事証券会社へのコンサルティング費用、監査法人への監査報酬、証券代行への株式事務代行手数料、証券取引所への上場審査費用が発生します。加えて、社内管理体制充実に伴う新たな人材の採用が必要となるケースが多く、その総額は年間数千万円以上になるようです。このように株式公開は費用負担が大きいため、費用対効果を念頭においた上で、上場を目指す必要があります。

さて、主幹事証券会社と証券取引所による審査とはどのようなものか、次回、具体的にお伝えしたいと思います。

吉村 崇司


16/11/30 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:column-post

競合先と差別化しようというときに、つい「値下げ」を考えがちな方はいませんか?2回にわたって経営の現場で使える管理会計の考え方をご紹介してきましたが、最終回の今回は、値下げが利益に与える影響の大きさについてふれたいと思います。

売上高=価格×販売数量なので、ふつう値下げを行う場合は、価格を下げ販売数量を増やして、売上高を維持または増加させようとするでしょう。しかし最終的には売上高だけでなく、手元に残る利益の確保が不可欠なはず。ではどの程度販売数量を増やしたら値下げ前と同じ利益を得ることができるのか、具体例に試算してみましょう。

1個500円の弁当を製造販売している個人経営の弁当屋を考えます。単純化のため弁当1個あたりの総経費は450円とします。弁当1個を販売すると利益が50円出る状況です(利益率10%)。

 

さて近隣に大手弁当チェーンの店が出店し、同額の1個500円で売り始めたので、弁当屋の社長は値下げで対抗しようと考えました。5%値下げしたとき、同額の利益を確保するには販売数量をどれくらい増やす必要があるでしょうか? 単価を5%下げるのなら販売数量は5%増やせばOKでしょうか?

実際に弁当1個当たりの利益はどう変化するか計算しましょう。

値下げ前(価格500円)の利益は50円です。一方、価格を5%値下げして475円で売った場合、経費はやはり1個あたり450円かかるので利益は25円。その結果、5%の値下げで利益は何と50円から25円に半減してしまいます。従って販売数量は5%増どころか、これまでの2倍売らなければ同じ利益額を確保できません。1日平均1,000個売っているとすると、平均2,000個売る必要があることになります。

このように値下げが利益に与える影響は極めて大きいのです。なぜでしょうか? それは値下げしても費用は減らないので、値下げによる売上減が利益減に直結するからです。この弁当屋の場合、値下げ幅は5%なので利益率は10%-5%=5%に低下します。また元々の利益率は10%なので、もし10%値下げすると利益はゼロになってしまいます。

値下げで利益を確保しようとしても、「値下げ後に大幅な販売数量の増加が望める」、そして「生産拡大により更なるコストダウンが可能」という条件が成立しない限り成功しないことがお判りでしょう。一般に、値下げは大量生産が可能な大企業に適した戦略です。中小企業が競合と対抗するには付加価値の高い、その店ならではの商品やサービスで差別化し、なるべく値下げを回避するのが望ましい姿です。個人経営の弁当屋であれば価格ではなく、大手チェーン店では真似できない味、食材、きめ細かい顧客サービスなどで勝負したいところです。

 

しかし値下げが一概に悪いとはいえません。より重要な目的の実現を目指す「戦略的な値下げ」はありえるからです。具体例としては以下のようなものが考えられます。

・将来の大口取引が見込める優良顧客に、実績作りのため安値で受注する

・値下げ商品を集客手段にして、利益率の高い目玉商品を一緒に売る

・リピーター向けに割引する(例:10回買物してくれたお客様に500円分のクーポンを出す)

このように会社の成長や競争力強化につながる、優良顧客の開拓、顧客単価向上、リピーター囲い込みなどの明確な目的があれば、値下げも有効な手段と言えるでしょう。安易な値下げは禁物です。値下げを考える前に、それが利益に与えるマイナス影響をまず試算し、販売数量の増加やその他の戦略的な目的を実現することで取り戻せるかどうかを、十分検証していただきたいと思います。

大橋 功


16/10/31 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:column-post

 

受注するときにどこまで値引きするかは、経営者にとって大事な判断です。売上は欲しい
が損もしたくない。そんな時、売るか見送るかの判断基準として「限界利益」の考え方
が役に立ちます。

いま商品Xを受注生産している会社があり、1個当たりの総費用(原価)は1,000円、その
内訳は以下の通りとします
・変動費:600円(材料費、外注加工費など、生産量に伴って増減する費用)
・固定費:400円(労務費、減価償却費など、生産量に関わらず一定金額発生する費用)
なお固定費は、商品Xをフル生産したときの生産量で固定費総額を頭割りし、1個当たりに
配分した金額です。

ここで1個800円なら10個買いたいという注文が来たとします。10個分の生産余力は十分
あります。800円では原価割れですが受注してよいのでしょうか?

まず1個800円で受注したときと、見送ったときの利益を比較します。
受注したとき:
収入:8,000円
費用:6,000+4,000=10,000円(変動費+固定費)
利益:8,000-10,000=▲2,000円

見送ったとき:
収入:0円
費用:4,000円(固定費のみ)
利益 0-4,000=▲4,000円

このように、受注すると利益が2,000円増えるので、「受注してよい」が結論です。
受注したときの利益増(=損失減)2,000円は、追加の収入8,000円が、変動費6,000円を
上回っている金額に相当します。この収入―変動費を「限界利益」とよび、売上高
の増減にともない追加的に変動する利益の大きさを意味します。従って限界利益が
プラスの場合、つまり10個で6,000円以上の収入であれば注文を受けてよいことに
なります。

別の状況を考えてみましょう。今度は在庫をいくらで処分すれば損しないかという
問題です。スーパーの食品売場等で営業終了間際に、生鮮食料品や惣菜に20%とか
30%の値引き札が張られているのをよく見かけますね。これも限界利益の考え方で
判断できます。

先ほどと同じ商品Xで考えます。ただしこれから受注するのではなく、すでに生産
された在庫を販売する点が、最初の設例と異なります。やはり変動費をカバーできる
1個600円以上で売るべきでしょうか?

今度は商品が生産されているので、売っても売らなくても、1個当たり1,000円の
費用の発生は避けられません。つまり、元々の費用の性格が変動費であろうと固定費
であろうと、1,000円全額が実質的には固定費になっています。従って実質的な
変動費はゼロです。限界利益=収入-変動費(ゼロ)なので、限界利益=収入。
つまり在庫処分の場合は収入がそのまま限界利益になるので、1円でもよいから
売ってしまう方がよいことになります。ただ極端な値引きをすると、商品イメージや
定価への信頼を損ねてしまうので、現実的には値引き幅に一定の歯止めが必要でしょう。

以上のとおり、収入が変動費を上回り限界利益がプラスである限り利益は増えます。
限界利益を判断基準にすれば、「原価にこだわって高く売るより、変動費を回収
できる水準で早く売ったほうがよい」ということがわかります。

ただしいくら限界利益がプラスでも、原価を下回る価格でフル生産水準まで売り
続ければ、売上高で総費用をカバーできず最終的には赤字となってしまいます。
限界利益は、生産余力があり固定費が増えない場合に、売るか売らないかの判断を
迫られたときの「短期的な判断基準」といえるでしょう。中長期的には、商品別の
限界利益率や利益額を把握したうえで、どのような売り方をすれば効率的に限界利益
で固定費をカバーし、黒字化できるかを考える必要があります。

限界利益を意識し、どのような価格で商品を売るかの判断に役立てていただければ
幸いです。

大橋 功


16/10/01 16:11 | カテゴリー: | 投稿者:column-post

財務会計と比べて管理会計は何かつかみどころがない、どう使っていいかピンとこな
い、と感じる方が多いようです。しかし経営の現場では、会計的な数字をもとに複数の
選択肢を評価し、判断する場面が日々発生します。その際、正しい意思決定をするため
に管理会計が役に立つのです。今回から3回に分けて、現場ですぐ使える管理会計の基
本的な考え方をご紹介します。

今回は管理会計で特に重要な2つの費用の概念をとりあげます。一つは埋没費用。サ
ンクコストとも言い意思決定には影響しない費用です。そしてもう一つが機会費用。
他の選択肢から得られたはずの利益を意味し、こちらは意思決定に影響します。
具体例で考えてみましょう。

1個500円の弁当を1日平均1000個、製造販売している弁当屋があるとします。そこで
は弁当1個当たりの材料費は200円、人件費および諸経費は1日20万円かかります。単純
化のため、材料費は変動費、人件費および諸経費は固定費とします。つまり材料費は売
上に連動して増減しますが、人件費および諸経費は1日20万円で一定です。

さて、この弁当屋で2つの事態が発生しました。
1) 20個の注文を受けた顧客に弁当を届ける途中全部落としてしまい、20個作り直して届けた
2) 毎日20個注文してくれる別の顧客から今朝、「今日は要らないよ」と連絡があった。
それぞれの費用(損害)はいくらでしょうか?
第一感は、1)は大損、2)はそれほどでもない、となりそうです。確かに実際の出費と
いう感覚ではそうかもしれません。しかし、それが起きなかった時と比べるという意識
で費用をとらえると、別の姿が見えてきます。

実際に計算してみましょう。ポイントは比較すべき選択肢を正しく決めることです。
まず1)では、弁当を落とした場合(A)と落とさなかった場合(B)で比較します。
売上高:同じ
材料費(変動費):Aの方が200円×20個=4,000円多くかかる
人件費+諸経費(固定費):20万円で同じ。
⇒ AはBより利益が4,000円減るため、弁当を落としたことの費用は4,000円。

次に2)では、弁当の注文がない場合(A’)と注文がある場合(B’)で比較します。
売上高:A’の方が500円×20個=10,000円少ない
材料費:A’の方が200円×20個=4,000円少ない
人件費+諸経費:20万円で同じ。
⇒ A’はB’より利益が6,000円減るため、注文が来なかったことの費用は6000円。
意外と大きい金額ですね!

これらの結果から言えることをまとめます。

まず、人件費+諸経費は1)でも2)でも事態の発生にかかわらず同じであり、費用
(損害)そのものの大きさには影響しません。つまり埋没費用に相当します。

次に、事態1)と2)の費用(損害)である4,000円と6,000円は、それぞれの事態発
生がないときに得られたはずの利益との差なので、機会費用に相当します。特に2)
では、出費が発生しないので費用(損害)を意識しにくいですが、機会費用の考え
方を取入れるとその金額がはっきりします。このように管理会計の費用概念を使う
ことで、経営者としては配達時の不注意をなくして作り直しを起こさないだけでな
く、なぜ注文が来なかったかの原因を探り顧客のニーズをフォローすることも大事
であることが良くわかります。

実際には人件費や諸経費の中に変動費が含まれているかもしれません。その場合
は 1)や2)の埋没費用や機会費用の金額は違ってきます。しかし大切なのは正確な
金額を計算することではなく、ある事態が起こったときに、その事態が起きなかっ
た時と比較して費用の大きさを認識しようとする意識です。それが今後の経営活動
の方向性や内容に関する、正しい意思決定につながるのです。

城南支部 大橋 功


16/08/31 22:00 | カテゴリー: | 投稿者:column-post

成功している企業に“経営の秘密”など実は存在しません。あるとすればそれは怪しい噂

-都市伝説に過ぎません。
成功する企業に共通しているのは『基本的な経営の王道』を実直に運用しているという事実
です。

優れたコンサルタントほど、そのことをよく理解しています。
そしてそれは、様々な状況に直面するあらゆる経営者に可能性と希望を与えるのです。

経営の核心-成功する企業は経営の王道に従う
●「経営者の覚悟」が組織全体に浸透し、従業員が行動する際の判断基準として機能している。
●「分かり易い目標」を共有することで、従業員が自律して考え活動している。
●「基本的な経営の仕組み」を実直に真摯に運用している。

つまり成功する企業では「経営者の覚悟」として示された一貫した方針の下で、
「共有された目標」を達成するべく、「基本的な経営手法」に従って、ブレることなく運用
されているのです。

1.「経営者の覚悟」
「経営者の覚悟」とは「経営理念・事業目標・行動方針」-言い換えれば“事業を為す理由、
実現したいこと、我々のやり方”のことです。従業員にとってあらゆる活動の拠り所となる
判断基準であり、これが曖昧であれば自律的で一貫性のある行動などは期待出来ません。
組織の血流として「経営者の覚悟」を徹底して浸透出来るかどうかが、経営の成否を左右します。
経営は“はじめに覚悟ありき”なのです。

2.「分かり易い目標の共有」
人財、資金、設備等を効果的に活用するために、それを集中させる「目標」を明確に共有
しなければなりません。
「目標」は、経営計画の中で具体化されて検討されるべきものです。人であれ事業であれ、
ブレずに真っ直ぐと絶え間なく工夫して歩んでいけば、必ず目標に近づきます。
経営者の覚悟が航海中の「様々な判断の拠り所」であるとすれば、目標の共有は「進むべき
針路を示す羅針盤」なのです。

3.「基本的な経営の仕組み」
基本的な経営の仕組みとは広く知られた極めてシンプルな仕組みに過ぎません。しかし、
その実直な運用の徹底こそが「経営者の覚悟」に従った組織の自律的な事業活動を可能に
するのです。
●経営理念―誇りを与えて方向を明示
●経営計画-重点事業や方法を検討し航海計画を明確化
●到達目標-経営計画の中で針路・羅針盤を策定
●経営戦略-到達目標を実現するための手段を選択
●事業計画―戦略を実行する中期計画を策定
●年度計画-事業計画を年度単位で具体化
●経営戦術-効果的な個々の手段を選択
●行動方針-従業員の行動に一貫性を付与
●実績評価-公正な評価により意欲向上と改善を促進

基本的な経営を徹底して運用し、また経営者自らが「覚悟」に忠実になることで
・理念に従い、計画と目標が共有され、必要な戦略と戦術が選択され、行動方針に沿った
ブレない活動が一貫して行われ、様々な環境変化に対応できる組織になる。
・理念と方針を理解し、誇りを持って行動する風土が醸成され、ひとりひとりが方向を
誤らずに自主的に判断できる。
・公正な評価により意欲が向上し、経営計画の達成に向けて結束していくことを可能とする。
・会社の魅力が高まることで、人が集まり組織がさらに強化される。

成功する企業は、実は基本に忠実であろうと努力しています。秘法を探すより「基本的な
経営の仕組み」を実践することが成功への鍵だと確信しているのです。

上田 悠貴


16/08/01 23:45 | カテゴリー: | 投稿者:column-post

昨今「サイバーセキュリティ」、「サイバー攻撃」といった言葉をよく耳にします。毎年2月に行われていた「情報セキュリティ月間」も「サイバーセキュリティ月間」に改称され、国家レベルでこの対応を進めていかなければいけないという政府の思惑が垣間見られます。ここ数年のサイバーセキュリティをめぐる主な動きは以下の通りです。

 

2014年11月 「サイバーセキュリティ基本法」施行

2015年 1月 「内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)」設置

2015年12月 「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」策定

 

「情報セキュリティ対策は取り組んでいるが、サイバーセキュリティなんて我が社には関係ない」なんて感じてはいないでしょうか。そもそも「情報セキュリティ」と「サイバーセキュリティ」とは何が違うのでしょうか。

情報セキュリティとは、情報資産を守るためのトータルな仕組み作りにフォーカスした表現です。情報資産を取り扱う場所の施錠管理などの物理的対策、取扱手順を定めて遵守するなどの組織的対策、ウイルス対策ソフトの導入や暗号化の実施などの技術的対策と広範囲を表します。

サイバーセキュリティとは、サイバー空間にフォーカスした表現です。コンピュータへの不正侵入、データの改ざんや破壊、情報漏洩、コンピュータウイルスの感染などのサイバー攻撃に対する防御行為となります。言葉の意味としては「情報セキュリティ」の方が広範囲を表すのですが、サイバー空間は容易に国境を越えてしまうため、テロ対策を含めたさまざまな攻撃への対応を検討する必要が出てくるのです。

サイバー攻撃は、迷惑メールやセキュリティホールを悪用するウイルスなどを無差別に送りつけて組織や個人に混乱をもたらす古典的なものから、組織や個人にターゲットを絞って攻撃したうえで、目的の情報を盗む標的型攻撃と呼ばれるものなどがあります。

 

こうした攻撃は大企業のみならず、昨今では中小企業において増加傾向にあります。中小企業のセキュリティ対策が甘いからです。昨年5月に日本年金機構が保有する個人情報約125万件がサイバー攻撃で流出した事件がありましたが、この対応を見る限り中小企業の実態と似ている部分があります。この事件を受けて、「サイバーセキュリティ基本法」において、国として監視をする対象を指定法人までに拡大する改正案が2016年4月15日に成立しました。今後、監視対象が一般企業まで拡大されることは十分に考えられます。

この法律の第十五条では、「国は、中小企業者その他の民間事業者及び大学その他の教育研究機関が有する知的財産に関する情報が我が国の国際競争力の強化にとって重要であることに鑑み・・・」とあり、サイバーセキュリティに対する取り組みの促進を促しています。

中小企業を狙ったサイバー攻撃の目的は、その企業の機密情報だけではなく、踏み台とされるケースも考えられます。大企業の機密情報を、その取引先である中小企業から間接的に入手しようとして攻撃をしかけるのです。

 

昨年策定された「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」は、経営者のリーダーシップの下でサイバーセキュリティ対策を推進するために策定されたガイドラインです。サイバーセキュリティ対応について、経営者が積極的に取り組むべきものとしていますが、セキュリティの担当者があってこそ組織として対応が可能となります。中小企業において専任のセキュリティ担当者をおくことは難しいかもしれませんが、被害にあってしまうとたちまち経営危機に陥るリスクがあります。

情報処理推進機構(IPA)には、IPAのコンテンツを活用し、中小企業に対して情報セキュリティの啓発や普及活動を行う「セキュリティプレゼンター」が登録されており、相談したい専門家を検索することができます。このような外部リソースを有効活用することも考えて、サイバーセキュリティへの取り組みを強化してみてはいかがでしょうか。

磯島 裕樹


16/06/30 21:00 | カテゴリー: | 投稿者:column-post

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